内外の口構え
今日のテーマ、Articulatory Settings(調音のセッティング)を「内外の口構え」と訳してみました。
HonikmanがArticulatory Settingsという論文(1964)で、音声器官を外から見える顎や唇と、口の中にある舌に大別して論じたからです。その論文によると、英語とフランス語の構えの違いはこうなります。ここで注目したいのは舌の支え(英語はAnchorage)。いつも舌の両側を上の歯に押し付けているとも取れます。舌面が若干凹であるなっていることも興味深いです。
英語
顎 緩やかに閉じている
唇 中立的、やや活動的に
口腔の状態 リラックス
主な子音調音 舌突-歯茎
舌の支え 横が天井に
舌突 先細になる
舌面 天井に対して若干凹
フランス語
顎 若干開いている
唇 円唇、円唇と平唇の間で活発
口腔の状態 頬をすぼめている
主な子音調音 舌端-歯
舌の支え 中央が下に
舌突 先細にならない
舌面 天井に対して凸
またカナダ人を対象に発話停止時の構え (ISP: inter-speech posture)を調べたWilson(1988)によると、こうなっています。この論文の面白いところは、ISPに着目したこと、バイリンガルを調べたら話す言葉に応じてこのように使い分けている傾向を確認したことです。
カナダ英語
唇 より突き出し
舌突 より高い
口角 より正中線寄り
唇 より突き出し
舌突 より高い
口角 より正中線寄り
フランス語(ケベック州)
唇 より突き出していない
舌突 より低い
口角 より正中線寄りでない
次に染田(1966)は日本語について、このように書いています。ここでの注目点は舌面。英語の場合は天井に対して若干凹でしたが、日本語の場合、天井に対して凸となっています。やはりこの舌面の凹か凸は大事なポイントの一つ。
日本語
口の開き 中程度に開いている
唇 中立的
舌の支え 中央が下に
舌突 先細にならない
舌面 天井に対して凸
次にEsling and Wong(1983)はアメリカ英語のセッティングについて次のように書いています。唇は平唇とありますが、イギリス英語と日本語の間ぐらいだと思います。舌面が口蓋化している(硬口蓋方向に引かれている)という指摘は面白いです。例えばYの音をとると、ヤ、ユ、ヨしかない日本語よりも確かに豊かです。喉頭の低下は藤村靖著「音声科学原論」でもRの発音のポイントの一つだと指摘されています。
アメリカ英語
顎 開いている
唇 平唇
舌面 口蓋化している
調音 そり舌
声 鼻にかかっている
喉頭 低下している
声 きしみ声
しかし、Collins and MeesはArticulatory setting in foreign language teaching のなかで、Esling and Wongが指摘した舌面の口蓋化について、むしろ歯茎化(alveoralized) しているとするべきだとし、常に舌が土手(上の前歯の後ろの歯茎)に向かう用意をしている、と書いています。さらにpartnerという単語を取り上げて、R音化の影響は二つの母音だけでなく、TやNなどの子音にも及んでいる、としています。この最後の文を読んだ時、やっぱりと思いました。確かにアメリカ人の中にはずーっとR音が通奏低音のように鳴っている発音の人がいます。
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