母音の相対性理論
母音の唯関係論と言ってもいいのですが、ちょっと派手な名前を付けてみました。では日本語を例に取ります。
2つの「おはようございます」を比べてみます。
NHKのアナウンサーがはっきり「おはようございます」と言う時。
二日酔いのサラリーマンがぼそぼそと「おはようございます」と言う時。
どちらも母音は「お、あ、お、う、お、あ、い、あ」(最後の「う」は発音されないことが多い)では、それぞれになりきって、2番目の「あ」同士を比べてみてください。違う音であることは明らかですね。アナウンサーの「あ」は相当しっかり顎の落ちた「あ」、一方サラリーマンの「あ」はあまり口の開かない「あ」です。英語で言えば、あいまい母音(シュワ)に近い音だと思います。
それでもサラリーマンの「あ」も役目を果たし、「おはようございます」と聞こえます。それはなぜかというと、ほかの母音もあまり口の開かない音だからです。言い換えれば、他の母音と関係において「あ」という地位を保証されているのです。だからもしこのサラリーマンの「あ」をアナウンサーの「おはようございます」の「は」の「あ」に入れると、多分「おふようございます」に近くなって、一気に不明瞭な発音になってしまいます。
では専門書から二重母音のアイ、エイ、オウについての引用です。
「実際には母音の末尾近くでも、狭母音に至らない比較的わずかな調音の動きを示すことが多い。このような動きのある場合、変化の量は少なくても、変化の方向は敏感に感じることができるので、音声学的には音価の変化は重要である」(藤村靖著「音声科学原論」P48)
著者はここで二重母音のアイ、エイ、オウについて述べていますが、二重母音(および二重母音的な音)の中だけでなく、単語や句にまたがる母音のシークエンスにおいても、「変化の方向」を敏感に感じながら発音したり、聞いたりしている。これが母音の相対性理論です。音価も大事だけど、音価の変化にもっと意識を向けてみましょう。そうすれば、もしかしたら英語力が・・・キラッ★
著者はここで二重母音のアイ、エイ、オウについて述べていますが、二重母音(および二重母音的な音)の中だけでなく、単語や句にまたがる母音のシークエンスにおいても、「変化の方向」を敏感に感じながら発音したり、聞いたりしている。これが母音の相対性理論です。音価も大事だけど、音価の変化にもっと意識を向けてみましょう。そうすれば、もしかしたら英語力が・・・キラッ★
さらに追加すると、話し手ごとの母音の音価自体の触れ幅は大きいけど、音価の変化の触れ幅は比較的小さいという仮説を持っています。そしてこのことがリスニングを容易にしているのかもしれません。
<2010年1月17日付追加情報>学説がありました!
「音声の音響分析」から
P112
母音の参照フレーム仮説: ある母音の一般的音響環境が基本的な情報を提供し、聞き手はこの情報をもとに話者の参照的な母音空間を組み手立てることができる。こうすることで、その話者が生成した母音は、この母音空間内で解釈されるのである。
母音のテンプレート理論: さまざまな人の音声を長期間聞いてきた経験をもとに、聞き手が母音のテンプレートを習得するという考え方。テンプレートは、男性、女性、子供に対して定められた音響的平均のようなものである。
P126 フォルマント周波数の変化率はおそらく英語の二重母音の同定に対して聴覚的に重要な特徴であろう。
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